No.625「ある日のお惣菜」「冬はそこまで」「当世女性名事情」

2021.11.13.No.625

「 ある日のお惣菜 」

なな.

 以前ご紹介した七菜の新人(期間未定)はぶっち君27歳。とにかく料理が大好きな愛すべき「料理バカ」(失礼)料理さえできれば幸せと、毎日にこにこ楽しそうです。高校から料理専門の学校に進学し、中華の鉄人の店で7年、高級イタリアンで3年修行をしたとあっていろいろな引出しを持っています。縁あって毎日同じ厨房に立つことになり、心技共に影響を受ける毎日。息子くらいの若い男性が楽しそうに料理のレクチャーや話をしてくれるので、おばさん2人もにこにこが止まりません。  仕事も早く、スタートが いつももたもたしていたところを手伝ってくれて、開店前にこんな写真を撮ってSNSに上げるまでに。盛り付けもイタリアン仕込み?とても美しく勉強になります。いつものメニューもランクアップ!さすがです。

  この日のメニューは【酒かすポテトのキッシュ・浸し枝豆・かぼちゃの煮つけ・大根葉の雑魚炒め・マッシュ里芋とレンコンのソテー・小松菜のお浸し】+人参のかき揚げ〈写真なし〉これが基本のちゃんとご飯のおかずになりました。 

 毎年おせちの何品かを入れ替えるのですが、目下ぶっち君と内容を試作中。お楽しみに!


「 冬はそこまで 」

高 志  

 真冬を思わせるような寒い日が続いて、服装も防寒対策用の物が出回り始めたと思ったら、一転して小春日和の暖かい日が戻ってきた。 

 それは何も温暖な関東南部だけに限ったことではなく、東北の玄関口に位置する水の里でも相変わらず気温の乱高下が続いている。 前回のお水採りでは、紅葉のはしりさえ見られなかった水の里だが、あれから10日余りで路面にはびっしりと落ち葉が敷き詰められるほど葉が散り始めていた。 東北釣堀苑の若旦那・とも君も晴れて腰痛が癒え、紅葉を楽しみに仕事復帰を果たしたのだが、思いのほか季節が進んでおり、がっかりしていた。 

 滞在期間中には終日雨の日があったのだが、それでもあまり気温が下がることはなく、夜になっても肌寒いような、それでいてストーブを点けると暑いような中途半端な気温にとまどってしまった。 

 水の里において、これからの季節、夕飯はもっぱら鍋料理になるのだが、そんな中途半端な気温であったため、夕飯の支度をする直前まで鍋料理にするか、いやはや他の料理にするか迷った末、時折強く吹く北風に誘われて鍋料理にした。 

 ところが、先述の通りストーブを点けると暑い気温であったため、鍋の美味の割には満足度が低くなってしまった。 

 やはり鍋料理は思わず『さっぶ~い!?』と背中を丸めてしまうほどの気温の中で食べるのに限ると、過去の経験に照らし合わせて再確認させられた。 

 それにしても日が短くて困ってしまう。あと1ヶ月もすれば冬至を迎える季節になったのだからしょうがないのだが、5時を知らせる村内放送が響く頃には真っ暗闇に包まれてしまう。30軒ほどの村の中央にはまがりなりにも国道が走っているのだが、国道沿いであっても村内には外灯が2か所しかない。 

 故に外灯だけでは、ほぼ真っ暗闇と言っても過言ではない。そんな真っ暗闇の中、ヘッドランプの灯りが揺らめいてお水採りをしている光景は、他の人たちにはどう映っているのだろう。 

 この時期において到底日中の明るい時間だけでは作業が間に合わない。なので、暗闇が忍び寄ってくるとヘッドランプを装着して作業をするのだが、夕方5時前後ともなると帰宅の車がそれなりに村内の国道を走っていく。それこそ、それぞれの車のヘッドライト以外に明かりがない中で、小さいながらも突如ヘッドランプの灯りがチラチラしだすのには驚くことだろう。運転手さんには申し訳ないと思いつつも、こちらも仕事なので仕方が無い。

  もう少しすると、気温の方が水温よりも低くなる。このあいづの水は年間を通して9℃くらいで変化がない。気温と水温が同じくらいまでは、水流があるからか水の方が冷たく感じるのだが、気温の方が水温よりも5℃くらい下回ってくると水が温かく感じられるようになる。 

 真冬の雪の中、飛び散る水飛沫がすぐさま凍り付くほど寒い中で作業をしていると、村人たちが呆れた顔で『冷たくないんかい!?』と声をかけてくれるのだが、体感的には今ぐらいから冬至にかけての季節の方が、まだ身体も寒さに慣れていないので冷たく感じる。まあ、水の冷たさだけで言えば、真夏が一番骨に染みるのだが・・・。 

 東北釣堀苑の営業も、12月最初の週末で今シーズンの営業を終了する予定だという。もう、そんな季節になってしまった。お水採りも、年内はあと3回で終了だ。長期予報だと、今度の冬は気温が低い傾向で、所によっては記録的な積雪量になりそうだという。 

 そんなことも覚悟しながら、穏やかなることを願いつつ今度の冬を迎えようと思う。 



 「 当世女性名事情 」       

上田 隆  

 通っているプール受付嬢の胸を見つめる。老眼なので眉間にしわが寄っている。瘋癲ジイ様ではないよ。胸の名札を読もうとするが、うまく読めないのだ。 

 「アンタの下の名前、画数が多くて見えへんねん。なんて読むん?」 

 「ゆりね です」 

 「親は茶碗蒸し食べながら考えたんかな。どんな漢字? 残念ながら老眼には判別でけへんねん」 

 「優璃音 小学校のころは苦労しました」

 「えらい凝りようやな」傍らに立つ女性に

 「キミのは?」

 「みゆう 美優です。うつくしくやさしい。名前負け、してます」  

 とうとう手術入院日になった。大きな病院玄関に入る。お決まりのアルコール消毒。

 「おっ、ロッド・スチュワートや。私、好きやったんです。レコードも持ってました」 

 「このTシャツ、友だちの土産でもらったんです」 

  でっぷりと体格のいい同年代の守衛さんの笑顔は、入院手術日の沈んだ気分を明るくしてくれた。 病室で荷ほどきしていると 

 「今日担当のKです。ウエダさん、きれいな銀髪の長髪ですね。樹木希林のダンナさんみたい」  「イェーーィ ロックンロール!オヤジはみごとな白く輝く銀色やった。オレなんか、まだ黒ゴマ混ざってるよ」

  体温、血圧を測っている。胸の名札が目の前にある。 

 「玲奈さんか、今どきの名前やなぁ~」 

 「友だちにジョニーやりぼん、なんてのも居ますよ」と笑う。 

 カーテンを閉めながらVサインをくれた。イケイケやなぁ~。 

 時間が来て、ストレッチャーに乗せられて運ばれる。 

 「今でも逃げ出したいねん。センセの説明、必要なんやろけど、だいぶビビらされた。オレ、口はワルイけど怖がりのアカンタレやねん」 

 「オトウさん、もうすぐ到着ですよ」 

 「お兄さん、男前の、と呼んでくれ」 

 「あははは、イケメンのお兄さん、着きましたよ」  

 無事成功。部屋に戻る。玲奈ちゃんがやって来た。 

 「気分は大丈夫ですか? ホンマに脱走しかねんな、噂してたんですよ」 

 「鼓舞するためにバカ言ってたが、『イケメンのお兄さん』が効いたよ。笑かしてもらって、ありがとう」 

 緊張からの疲れがどっと出た。くたくたになって眠った。翌日、少し元気が出てきた。今どきの女性の名前のリサーチを始めた。担当は日替わり、時間替わりで何人もの看護師さんが来てくれる。

  絵理奈、恵梨香、彩夏 さいかと読んだらあやか、だと言う。真弓はちょっとクラシカル。もっと何人もにリサーチしたが、思い出せない。子のつく名前は一人もいなかった。 

 「看護師さんの名前で子のつく人はいる?」 

 「そう言えば、いませんね。友だちでもいないですね」 

 「オレたちの時代では大多数の女性名は子つき、子だくさんやった」 

 「アハハハ、子だくさんねぇ」  

 五日目で退院となった。ナース・ステーションに 

「手術は怖かったけど、楽しい入院生活でした。ありがとう」 

 顔見知りになった看護師たちが笑顔を向けてくれた。

ラ・ラビアータたより

都会の子供に美味しい山の湧水を飲ませたい。1995年、友人の言葉をきっかけに、会員制で南会津の湧水を宅配し始めてから月2回のペースで発行を続けているLettela L'Arrabbiata/ラ・ラビアータたより。オーガニック七菜の日々がつづられている。水の里、キャンプ、イベント、出産/子育て、開店、ケータリング、料理…過去から現在まで、七菜の歴史である

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