「　皆さま、お気を付けを！！　」

高　志

　数年前から母が足の付け根が痛いと言いだした。最初の頃は、少し歩いては立ち止まりを繰り返していたのだが、そのうちに杖が無いと歩けないようになった。それでも、買い物などは自分でこなしていたのだが、ある時買い物の帰りにいよいよ歩けなくなってしまい休んでいると、それを見ていた近所の方が荷物を持ってくれ家まで付き添ってくれたそうだ。

　いくら不自由でも、自分で何とかできるうちは頑張ってこなしていたが、他人に迷惑をかけるようになると次第に腰が重くなるのは必然だ。

　それでも、病院やリハビリ施設などには自分で行っていたのだが、予約時間に間に合わなくなったり、バスの乗降にやたらと時間がかかったりして、段々と足が遠のいてしまった。

　整形外科の診断によると変形性股関節症とのことで、いくら周りの筋肉を鍛えても悪くなるスピードを遅らせる程度の効果しかなく、人工股関節に置換する手術以外に処置法がないらしい。

　普段お世話になっている循環器科や心臓内科の担当医からも手術を勧められ、渋々ながらその方向で話を進めようとしていた矢先の出来事だった。

　朝早く、僕になり変わる人物から電話があり、いわゆる”オレオレ詐欺”にまんまと騙されそうになったのである。数日後に人工股関節センターでの診療が控えていたため、その確認にと電話をしたところ珍しく通話中であったため、変だなという思いに駆られた。

　しばらくして再度かけ直すと、普段通り繋がったので要件を済ませて電話を切った。その直後、母から電話があり『今、電話した？』と聞いてきた。こちらにしてみれば、電話をしたも何も電話したでしょ！？という気持ちで、もしかしたら痴呆が始まったのかと本気で心配したのだが、よくよく話を聞いてみると、先ほど僕が電話した時に電話中だった相手が僕を装い少しでも良いからお金を貸してほしいと言ってきたというのだ。

　声の調子も違うし、変だなという思いもあったようだが、仕事の関係でミスをして返済に苦しんでいるというから憔悴しているのだろうかと思ったとそうだ。

　偶然、その直後に僕が連絡をしたから良かったのだが、もししていなかったら郵便局にお金をおろしに行くところだったらしい。

　今の僕の仕事について大方知ってもいるのだが、切羽詰まるとこんなにも易々と騙されてしまうものなのか。その詐欺電話では、しばらくしたら母の家に別の者がお金を取りに来るということだったので、すぐさま母の家に行き大事に至らないようにと対応したところ、何度かしつこい電話がかかって来ていたが、留守番電話にして相手が話すまで待ったところ、それ以降事なきをえて済んだ。

　冷静に考えてみれば、つじつまの合わないことばかりのため、何で簡単に騙されたのかと憤慨もしたが、文さんに話したところ『もしも伸の名前を語って仕事に失敗して補てんしなければならなくなったと言われたら、私だって騙されちゃうかも！？』というので、母親というものはそういうものなのかと思うようにした。

　数日後、地域情報誌に藤沢市内において同様の詐欺が多発しているのでご注意くださいという記事が掲載されていたので、最悪のケースに至らなかっただけ良かったかと胸を撫で下ろした。

　何年も前からニュースで騒がれており、今や誰でも『オレオレ詐欺』『なりすまし詐欺』の存在を耳にしているのだが、その存在が無くならないのはこういうことらしい。

　ただでさえ、新型コロナウィルス問題や災害級の気象条件が重なると、人は不安になるものである。悪意というものは、そうした心の隙を巧妙に突いてくるものらしい。自然災害なら仕方が無いと思えるものだが、皆さまくれぐれもお気を付けください！！

2020.09